大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1583号 判決

○当事者

控訴人

東京都

右代表者知事

東龍太郎

右指定訴訟代理人東京都事務吏員

泉清

永井孝二郎

被控訴人

株式会社玉川屋

右代表者代表取締役

伊藤秀将

右訴訟代理人弁護士

岡田喜義

○主   文

原判決を取り消す。

被控訴人は、控訴人に対し別紙物件目録第二記載の建物(一)、(二)及び工作物を収去し別紙物件目録第一記載の土地を明け渡せ。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

○事   実

控訴人訴訟代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し別紙物件目録第一記載の土地上にある別紙物件目録第二記載の建物(一)(二)及び工作物を収去し、同地上にある梱包用木箱その他の動産をとり除き右土地を明け渡せ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決(このうち、別紙物件目録第二記載の建物(二)の収去を求める部分は当審における新たな請求である。)を求め、被控訟人訴訟代理人は、控訴棄却並びに控訴人の当審における新たな請求棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、次のとおり付加、訂正するほかは、いずれも原判決事実摘示と同一であるから、その記載をここに引用する。

一、控訴人訴訟代理人の陳述並びに拠証の提出、援用及び認否

(一) 本件埋立免許には、公有水面埋立法第二四条第一項但書に基づく免許の条件として「第六条埋立工事竣工の上は公共の用に供すべき道路敷二五、九三六坪、共同物掲場敷三、三〇四坪は無償にて港湾管理者に帰属するものとす。」との定があるけれども、別紙物件目録第一記載の土地(以下「本件土地」という。)は、右第六条にいう「道路敷」又は「共同物揚場敷」にあたらないし、そもそも右第六条にいう「港湾管理者」とは港湾法第二条第一項の規定によれば同法第二章第一節の規定により設立された港務局または、同法第三三条第一項の規定により設立された地方公共団体があるときはその者と解すべきところ、東京都の港湾については港務局が設立されておず、また港湾管理者として同法第三三条の規定による地方公共団体が設立されていないのであるから同法第三三条の規定の解釈上、東京都が単独で港湾管理者となるものである。したがつて、控訴人は本件土地を含む本件埋立地一四六、一九〇坪の全域にわたつて竣功認可を停止条件としてその所有権を取得するものである。而して公有水面埋立の免許は、特定の範囲の公有水面について排他的に埋立をなし、土地を造成し埋立竣功認可を停止条件として埋立地の所有権を取得する権利を設定する行為であり、埋立免許に基づき埋立権者は当該公有水面を埋立ての進捗に伴い造成された埋立地を他人の積極的な行為を要せず公有水面埋立法第二三条により直接管理し占有使用する権利を取得するにいたるもので、かゝる権利は当該埋立地に関する成々途上の土地所有権ともいうべきものであるから、控訴人は本件土地について、所有権の効力として使用収益権を有すると類似の排他的な妨害排除請求権を有するものである。殊に本件土地を含む一帯の区域は控訴人が埋立工事を施行し昭和三〇年頃には右区域一帯にわたつて事実上土地が造成され、その後埋立造成工事はほゞ完了し鉄筋コンクリート矢板護岸工事もまたはほゞ完成するにいたり、その結果海面との境部分以外の土地は完全に造成されるにいたつているのであるから、控訴人は、本件土地につき実質的にみて土地所有権に準ずる権利を有しているものというべきである。

(二) 控訴人は、昭和三六年三月一五日付で埋立免許の権限を有する訴外東京都知事に対し、本件公有水面埋立工事期間伸長申請を提出し、同年八月八日付で竣功期間を昭和四〇年三月三一日まで延長する旨の許可をえた。

(三) 被控訴人は、昭和三七年八月頃本件土地に一〇、五坪の建物を建築しその後これを一九坪に増築したから、本訴において、その収去をも併せ請求する。

(四) 証拠(省略)

二、被控訴人訴訟代理人の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否

(一) 公有水面埋立法第二三条にいわゆる使用権は、埋立権者が当該埋立地を埋立事業を遂行するために使用し、その他埋立の目的に反しないかぎりにおいて当該埋立地を埋立事業の遂行以外の目的で使用できる内容をもち且つその限度で右埋立地を使用しうる権能を有するにすぎないものであり、保護の必要性のごく簿いものである。従つて同法第二三条の使用権は支配権といい、あるいは財産上の権利と言つても物権的請求権と同様の権利ではない。このことは公有水面埋立法と同種の法系に属する土地改良法第一一九条が「その施行に係る地域内にある物件にある物件でその事業の障害となるものを移転し、除去し、又は取りこわすことができる。」と明文を設けているに拘らず公有水面埋立法自体になんら物権的請求権を認める旨の明文がないことよりみれば明らかである。

公有水面埋立法第二四条第一項但書の規定に基づいて付された本件埋立免許に関する条件を定めた命令書第六条は将来本件係争埋立地の竣功時に港湾法第三三条の規定により港務局又は港湾管理者としての地方公共団体が設立されることを充分予期して設けた規定である。即ち、公有水面埋立法によつて、埋立地を埋立免許に一括してその所有権の帰属を認めるときは公共の用に供する敷地についてまで埋立免許者の自由にこれを使用処分され種々なる弊害を生ずべく、これをさけるため公共の用に供する敷地については埋立免許者とは別個の法人格に帰属せしめ、これをして管理せしめる法の趣旨からして埋立免許者である控訴人とは別個に港湾管理者としての港務局又は公共地方団体が設立されなければならない。従つて、控訴人が現在港湾管理者であるとしても公用又は公共の用に供する為必要なる本件道路敷及び共同物揚敷について、控訴人が右認可を条件としてその有所権を取得することができるとは断言できない。仮りに控訴人主張の如く、控訴人が本件埋立地の全地域について竣功認可を停止条件としてその所有権を取得することができるとしても、それはあくまで停止条件所有権取得であつて、単なる期待権に過ぎない。従つて、その保存について所有権の規定に基づいてその権利を行使しうるものではない。

(二) 仮りに以上の主張が容認されないとしても、埋立免許者である控訴人は本件埋立工事を昭和一三年六月二五日から五ケ月以内に着手し昭和三六年三月三一日までに竣功しなければならない義務がある。然るに控訴人は右期日に工事を着手しないことは勿論昭和三六年三月三一日を経過した今日においても未だに竣功しないばかりか、右竣功の時期である昭和三六年三月三一日から三ケ月内である昭和三六年六月三〇日内に何等復活許可を受けていない。従つて、公有水面埋立法第三四条により控訴人の埋立免許はその効力を失い、控訴人は同法第二四条による竣功認可を条件として本件土地の所有権を取得することができなくなつた。

(三) 被控訴人が本件土地上に別紙物件目録第二記載の建物、工作物等を所有し同土地を占有している事実は認める。

(四) 訴外東京市が大正一三年六月二五日東京府知事から東京市深川区地先海面一四六一九〇坪の埋立免許をえ、その後控訴人が右権利を承継し、その工事を施行していたことは認みる。

(五) 被控訴人は、昭和三四年七、八月頃から訴外長尾等を雇傭して本件土地を埋立て同年末頃には土地として使用しうる状態となし、昭和三五年二月早々本件土地にバリケードを設置し木箱を置いたりして使用占有してきたものである。

(六) 証拠(省略)

○理   由

東京市が大正一三年六月二五日東京府知事から東京市深川区地先海面一四六一九〇坪の埋立免許をうけその後控訴人が右権利を承継し、その埋立工事を施行している事実は当事者間に争いがない。

(証拠―省略)によると、昭和三〇年頃は右埋立工事が相当進捗し土地として使用できる部分ができたので、控訴人の所管局たる都港湾局は江東区深川枝川町二丁目地先八号地の一部一九〇一九坪を昭和三〇年一一月から都清掃局に使用せしめ、清掃局は、ここを別紙物件目録第一記載の本件土地をふくめて八号地塵芥第二処理場の名称のもとにごみ処理場として使用しつつその埋立工事をすすめ昭和三四年二月から三月にかけて本件土地を更に高く埋め立てた上、本件土地西側の境より東側に五間位よつた地上に南北に直線に並んでごみ処理作業のための受付用事務所、作業員詰所、ブルトーザー車庫、留守番住家等六棟のトタン葺木造バラツク建家屋を建築し、本件土地のうち右家屋の西側、本件土地と「東洋鉄筋」の占有している土地との境に至る空地は作業員の物干場として使用し、もつて都清掃局が本件土地全体を占有使用し、その後右埋立工事も完了したのて、港湾局は昭和三五年三月三一日清掃局から本件土地を含む江東区深川枝川町二丁目地先八号地一九〇一坪の未竣功地の返還をうけ、港湾局はひきつづきこの土地を管理し同年四月一二日頃までには前記六棟の建物は清掃局によつて撤去され、四月一四日からは港湾局総務部土地課管理係員近藤庄助をして前任の同係員富井武三の引継ぎをうけて本件土地を含む八号地を巡視せしめ、同人は巡視の結果を巡視日誌に記載し同年五月二三日までは右港湾局が継続して平穏裡に本件土地を占有管理していたところ、同月二四日突如被控訴人が本件土地上に木製空箱を搬入して本件土地上に木製空箱を搬入して本件土地を梱包用木箱の置場として使用しはじめるに至つた事実を認めることができる。

被控訴人は、本件土地は被控訴人が昭和三四年七、八月頃から訴外長尾等を雇傭してその埋立工事に着手し同年暮頃使用できる状態とし、被控訴人は昭和三五年二月本件土地にバリケードを張り木箱置場として本件土地を使用占有してきたものである旨主張し、原審における証人長尾竹次は、同人が被控訴人のために本件土地を昭和三四年六月から一二月頃までの間に埋立て、被控訴人は昭和三四年六、七月頃から本件土地を木箱置場として使用し、同年八、九月頃本件土地にバリケートを設置した旨、原審における被控訴人代表者は昭和三四年七月頃本件土地を使用することに決し、昭和三五年二月初頃バリケードを設置し、木箱置場として使用を開始した旨、それぞれ供述する。しかし、右各供述は、前掲甲第四及び第五号証の各記載並びに原審における証人近藤庄助の証言中、昭和三五年五月二三日係長小柴正二郎を案内して本件土地を巡視した際には本件土地上には木箱も存在しなかつたが、翌二四日に巡視したところ本件土地上にトラツク一台分位の量の梱包用木箱が置かれ、且つ本件土地の東側附近にバリケードを設置すべく一部は木抗を打ち込みそれに針金をまきつけ、一部は木抗を打込むための穴を堀つた状態であつたが未だ囲を設けたという形状にはなつていなかつた事実が発見された旨の証言、原審における証人富井武三の証言中、近藤庄助の前任者である巡視係員富井武三は昭和三五年四月一四日近藤に巡視事務を引継いだが右近藤が病気で支障を生じたため近藤に代つて同年五月一八日、同月二一日の両日八号地を巡視したが本件土地にはバリケドも木箱も発見されなかつた旨の証言、当審における証人満田熊吉の証言中「東洋鉄筋」が昭和三四年秋頃本件土地の西側に隣接した地にバリケードを設置して同地を占有するまでは、その地に木箱が置いてあつたがその後は木箱も置かれなくなつた旨、清掃局係員は本件土地のみならずそれに隣接する西側二間ないし三間巾位の処までを埋立て平担地としたもので長尾は更にその西側の土地を埋立てていた旨、現在被控訴人の設置してあるバリケードは昭和三五年四月初当時には存在しなかつた旨の証言に照らして採用し難く、(中略)他に前記認定事実をくつがえすに足る証拠はない。

そうだとすれば控訴人は昭和三五年五月二三日当時本件土地を単独に占有していたものであるところ、同月二四日被控訴人は控訴人の右占有を実力をもつて排除して本件土地を占有するに至つたものであるということができる。そして、被控訴人が本件土地上に別紙物件目録第二記載の建物及び工作物等を所有し木箱を置き現に本件土地を占有している事実は被控訴人もこれを認めるところであり、控訴人が本訴を提起した日時が昭和三六年五月二三日であることは記録上明らかであるから控訴人は被控訴人に対し本件土地の占有権に基づき別紙物件目録第二記載の建物及び工作物を撤去し、地上に存置してある木箱を取り除いて本件土地の返還を求めることができる。

なお、控訴人は埋立地使用権に基づいても被控訴人に対し本訴土地の明渡を請求することができるものと主張する。公有水面埋立法による埋立の免許は、公有水面の公用を廃止し埋立工事の竣功認可を条件として、埋立の免許を受けた者(以下埋立権者という。)に民法上の土地所有権を付与することを目的とするものである。従つて当該水面が埋立てられた場合に埋立地の使用収益をなし得る者が埋立権者であることは当初から予定されているところであるが、ただ公有水面埋立法第二十四条は埋立地の所有権が埋立工事竣工認可の日にはじめて埋立権者に帰属するものとしている関係上、埋立工事が進行し事実上陸地となつた部分も工事竣工認可前は所有権の行使としてこれを使用収益することはできない。しかし、法律上の所有権はなくともかような陸地を土地として使用収益することを禁ずべき理由はないので、同法第二十三条は、かような埋立地は埋立権者が同条但書の制限の下にこれを使用することができるものとしている。

埋立権者のこの埋立地使用権は、同法第二十三条によりその土地につき直接に与えられたものであつて、国その他の第三者に対する対人的権利ではなく、又、埋立の結果水面を水面として公用に供することは事実上不可能となり、しかも埋立権者の利益を排除しこれを土地として新たな公用に供することは、そのための特段の処分等がなされるならば格別、そのようななんらかの処分等を要せず当然にこれをなし得るものとは考えられないので、埋立権者による右陸地の使用権は、土地所有権に基づく使用の権利とその態様において区別することができない。これを所有権の行使ということのできないのは、まだその水面(実は陸地)につき形式上の公用廃止処分がなく、埋立権者に民法上の所有権が認められていないからという理由に過ぎない。従つて同法第二十三条本文は、埋立権者に対し埋立工事竣功認可前埋立地につき所有権による使用と同じ内容の使用をなす権利を与えたものというべきである。それは直接当該埋立地を支配する権利であつて、国その他の者に対する対人的権利ではない。従つて何人といえども埋立権者のこの土地使用権を害することはできず、埋立権者は第三者によりその使用権を害されたときは所有権者と同様第三者に対しこれによる損害の賠償を請求することができることはもとより直接その第三者に対し妨害の排除土地の返還をも請求することができるものと解するを相当とする。

ただ本件においては、さきに説示したとおり、控訴人の被控訴人に対する占有権に基づく請求が、すでに当審における新たな請求をも含めてすべて正当であるから、控訴人の埋立地使用権に基く請求の当否については審究を進める必要がない。

以上の次第で、控訴人の被控訴人に対する本訴占有権に基づく請求を理由があるものと認容すべく(もつとも控訴の趣旨中、梱包用木箱その他の動産を取り除き、とある部分は、被控訴人に対し右物件の給付判決を求めるものでなく本件土地明渡の給付判決の強制執行の方法を表示したものと解すべきであるから、これを主文は掲げる必要はない。)これと異る結論の原判決は取り消さなければならない。なお、原判決は実体法上の占有回収請求権が侵奪の日から一年を徒過することにより消滅することを理由に占有回収の訴につき請求棄却の本案判決をしたものと解せられるから、本件については民事訴訟法第三八八条の適用はない。よつて、民事訴訟法第三八六条、第八九条、第九六条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 小沢文雄 判事 池田正亮 判事 宇野栄一郎)

物件目録第一、第二(省略)

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